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「好きを仕事に」より「仕事を好きになる」『科学的な適職』書評

仕事を選ぶとき、どのような基準で選べばよいのだろうと悩んだことはありませんか? 

「好きなことを仕事に」「安定した業種」「フリーランス」など、キャリア選択に関するアドバイスはあまりに多く、どれを信用していいか分からない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

『科学的な適職』の著者である鈴木祐氏は、こうしたアドバイスは、その方法で成功したひとの主観的な体験に基づくもので、万人に当てはまるものではない、と述べています。

本書では、統計データや論文、心理学などの観点から、合理的な「仕事探し」とはどういうものなのかを明らかにしています。

すると、これまで一般的なキャリアアドバイスと考えられていたものが、実は長期的に見ると正しくない、むしろ統計データ上では相反する結果を生んでいるケースが数多く見つかったといいます。

今回は、『4021の研究データが導き出す 科学的な適職』を参考に、キャリア選択において気を付けたい、意外な盲点についてご紹介します。

・仕事選びにおける「7つの大罪」とは?


『科学的な適職』の著者・鈴木祐氏は、仕事選びで陥りがちな定番の間違いを七つ挙げ、「仕事選びにおける7つの大罪」と呼んでいます。

本書から引用すると、

  1. 好きを仕事にする
  2. 給料の多さで選ぶ
  3. 業界や職種で選ぶ
  4. 仕事の楽さで選ぶ
  5. 性格テストで選ぶ
  6. 直感で選ぶ
  7. 適性に合った仕事を求める
『4021の研究データが導き出す 科学的な適職』鈴木祐著 クロスメディア・パブリッシング(2019)

この7つが、仕事選びにおいて間違いやすい「7つの大罪」だといいます。

いずれもキャリア選択の場面でよく使われがちな手法ですが、科学的な統計データの観点から見ると、実は誤った思い込みや幻想に基づくものだと著者は述べます。

・「好きを仕事にする」ことの意外な落とし穴


とくに①番の「好きを仕事にする」というのは、よく聞かれるキャリアアドバイスではないでしょうか。

一見すると、好きなことを仕事にできれば、技術の習得に熱心になったり、前向きな気持ちで仕事に臨むことができそうに見えます。

しかし、本書に掲載されている2015年のミシガン州立大学の調査によると、職業選択で「好きなことを仕事にすること」の思わぬデメリットが浮かび上がる形になったのです。

この調査では、「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考える『適合派』と、「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考える『成長派』の二つに分けました。

そして「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」というテーマで大規模調査を行いました。

すると、『適合派』の幸福度が高かったのは最初のうちだけで、1~5年の長いスパンで見た場合には、『成長派』の方が、幸福度・年収・キャリアのレベルが高い結果になりました。

・「好きを仕事にする」派は理想とのギャップを感じやすい?


たとえ、どれほど好きなことを仕事にできたとしても、現実には対人面でのトラブルやクレーム対応、サービス残業など、好きなことの範囲を超えるものが仕事には絡んできます。

「好きなことを仕事にする」派は、こうした出来事が起こりうることを考慮しておらず、理想と現実のギャップを感じやすいと言います。

すると最終的に見た幸福度は下がり、現実とのギャップから、「本当はこの仕事が好きではないのかもしれない」と思い込んで、離職しやすい傾向にあります。

結果、キャリアや年収も下がりやすくなる、という負のスパイラルが起こり得ます。

巷でよく聞かれる『好きなことを仕事にする』というのは、いい面ばかりが強調されて、そのデメリットについては明かされません。

こうした職業選択の研究は、『好きなことを仕事にする』ことの盲点を見事に突いた調査と言えるでしょう。

・『天職』は、はじめから存在しているものではない、という研究結果


では、どのようにして自分の適職を見つければよいのでしょうか。

『科学的な適職』の著者・鈴木祐氏は、そもそも自分の適職や『天職』がどこか別のところにある、と考えるのが間違いだと述べます。

2014年のロイファナ大学が行った起業家へのアンケート調査によれば、

  1. 「いまの仕事に対する情熱の量は、前の週に注いだ努力の量に比例している」
  2. 「過去に注いできた努力の量が多くなるほど、現時点での情熱の量も増加した」

という結果になったと言います。

本書からさらに引用すると、

被験者のなかで、最初から自分の仕事を天職だと考えていた人はほぼいませんでした。最初のうちはなんとなく仕事を始めたのに、それに努力を注ぎ込むうちに情熱が高まり、天職に変わった人がほとんどだったのです。

『4021の研究データが導き出す 科学的な適職』鈴木祐著 クロスメディア・パブリッシング(2019)

このように最初から『天職』に就いていると感じていたひとは稀で、むしろ仕事を続けていくうちにそれが『天職』と言えるものに変わっていったと感じるひとがほとんどです。

つまり、自分にとっての適職がどこか別のところに存在していると考えるよりも、偶然にも仕事を続けているうちに、それが適職になっていく、と考える方が、仕事探しにおいては合理的な判断になります。

・「好きを仕事に」よりも「仕事を好きになる」


真の天職は「なんとなくやってたら楽しくなってきた」ことから見つかると、著者の鈴木祐氏は述べます。

以上の研究からわかるのは、「情熱は後からついてくるものだ」というポイントです。「仕事への情熱」とは自分の内にたぎる熱い感情などではなく、「なんとなくやってたら楽しくなってきた」といった感覚から始まる穏やかなプロセスだと言えます。

 このような情熱のあり方を、心理学では「グロウス・パッション」と呼びます。「本当の情熱とは、何かをやっているうちに生まれてくるものだ」という考え方のことです。

『4021の研究データが導き出す 科学的な適職』鈴木祐著 クロスメディア・パブリッシング(2019)

どれが『適職』なのかと見極めようとして、あれでもない、これでもない、と自分の選り好みをしているうちは、『適職』は見つかりません。

それよりも、「何となくでも続けられる」ものを見つけるために、いまの仕事で打ち込めるものを探したり、たとえ好みとは違っても、新しい仕事にためらわずに飛び込む方が『天職』に近づけるのではないでしょうか。

『科学的な適職』ではこうしたキャリア選択に関する思い込みを鮮やかにひっくり返す事例や海外の研究データが紹介されています。

仕事探しに悩んだときには、ぜひ本書を参考にしてみてください。

(了)

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