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健やかに働くためのメンタルケア「心を壊さない生き方 超ストレス社会を生き抜くメンタルの教科書」書評

仕事や家事に追われ、対人関係で悩むうちに、いつの間にか心に余裕がなくなっている、と感じることはありませんか。

現代はストレス社会といわれ、職場や学校での人間関係になじめなかったり、仕事と家庭生活のバランスを崩したりと、メンタルに不調を感じやすい社会とも言えます。

日本のメンタルヘルスの状況は深刻で、うつ病などをはじめ、精神面で何らかの疾患を抱えている人の割合は年々増加傾向にあります。

精神的な不調により、休職に追い込まれたり、会社で働けなくなってしまった、と感じる方も少なくありません。

メンタルの問題は、社会生活の基礎ともいえる労働の問題とつながっており、心身の健康を保つことが、このストレス社会を切り抜けるための重要な要素になっています。

「心を壊さない生き方 超ストレス社会を生き抜くメンタルの教科書」では、SNSで有名なTestosterone(テストステロン)氏と、精神科医の岡琢哉氏が監修した、メンタルを改善するためのアドバイスが詰まった本です。

今回は本書を参考にしながら、「どのようにしてメンタルの健康を保つのか」について、見ていきましょう。

・BMIとうつ病との関係


メンタル面での健康と、身体的な健康は切り離されて考えられがちですが、実はこの二つはかなり密接に結びついていることがメンタルヘルスの研究で判明しています。

たとえば、「うつ病の患者には、BMIが25以上の人が有意に多い」という研究データがあります。

BMIは肥満度を表す指数です。

この研究データは「BMIが25以上であるから、うつ病になりやすい」「BMIが正常だからうつになりにくい」ということを示すものではありませんが、何らかの相関関係があることを示したものです。

本書のなかで精神科医の岡琢哉氏は、このように述べています。

精神的な不調と生活の乱れ、体格の変動は同時に現れることも多いため、不調のサインの一つととらえることも重要です。

「心を壊さない生き方 超ストレス社会を生き抜くメンタルの教科書」Testosterone・岡琢哉著 文響社(2020)

うつ病により日中の活動量が低下したために体重の増加を招いたり、あるいは肥満によってBMIが正常なひとよりも日常生活でストレスを感じやすくなっているなど、様々な要因が考えられます。

一概に、うつとBMIに因果関係がある、と断定することはできませんが、BMIの指数はメンタルヘルスとも関わりがある、ひとつの目安として捉えるとよいかもしれません。

精神と身体の健康は、完全に切り離して考えるものではなく、関連性があるものとして見ていくと、メンタル改善のための新しいアプローチが見つかることがあります。

メンタルの不調を改善するためには、薬物療法だけではなく、食事・睡眠・運動といった身体面からのケアが有効である場合があります。

・朝食を食べる習慣がメンタルの改善に役立つ


たとえば、食事の取り方によってもメンタルを改善できる方法があります。

とくに朝食とうつ病との関連がよく知られています。

朝食を取る人と取らない人では、朝食を取ったひとの方が栄養状態、運動・活動量が多く、うつの症状も有意に少なかったことが海外の研究で分かっています。

また、海外の研究だけでなく、日本人を対象にした研究も本書の中で紹介されています。

Hiddenら(2018)は日本人1万1876人を対象に、肥満(BMI)や生活習慣と、精神疾患の関連性について調べました。それによるとうつ病になった人は頻繁に間食したり、夜食をとったりする人が多い一方で、朝食を食べる人は少なかったそうです。「うつ病と朝食の摂取頻度には負の関連がある」としていますので、朝食を食べる習慣のある人はうつ病になりにくいと言えます。

「心を壊さない生き方 超ストレス社会を生き抜くメンタルの教科書」Testosterone・岡琢哉著 文響社(2020)

もちろん、朝食さえ取ればうつ病がただちに改善するという話ではありませんが、こうした生活習慣を一つひとつ作り上げていくことが、精神疾患の予防に役立ちます。

・現代の日本社会で軽視されがちな「睡眠」とメンタルの深い関わり


メンタルの不調と深い関わりを持っているのが睡眠ですが、現代の日本社会では軽視されがちなものです。

2019年のOECDの調査によれば、日本人の睡眠時間は先進国のなかでもワースト1位の短さと言われ、平均睡眠時間は6時間30分となっています。

さらには、睡眠時間が6時間未満のひとが40%以上もいると言われ、日本の短い睡眠事情はメンタルヘルスの問題を引き起こす要因にもなっています。

海外の研究では、数万人の高齢者を対象に調査を行い、睡眠効率が低くなると死亡率が高まり、病気やうつのリスクも高まるという研究データも出ています。

他の研究データも、本書のなかで紹介されています。

英国の26校の大学生3755人を対象とした研究では、不眠症を改善したことで偏執病(パラノイア=他人が常に自分を批判しているという妄想を抱く)や幻覚症状が軽減したとされています。身体的な健康面だけでなく、健康とメンタルの間にも深い関係があるのは間違いないと言っていいでしょう。

「心を壊さない生き方 超ストレス社会を生き抜くメンタルの教科書」Testosterone・岡琢哉著 文響社(2020)

睡眠時間が足りていないことで、メンタルの不調を招くことは明らかになっているので、不安定な気分になりやすい方は、睡眠と生活リズムを見直してみましょう。

本書のなかで、睡眠量(成人)は「8時間前後」を目安にするとよいといいます。

会社員であれば、午後11時頃に就寝し、午前6時に起きると、7時間程度の睡眠時間となります。

平日の疲れや忙しさで実行が難しい場合もありますが、最低でも日を跨ぐ前に就寝し、7時間は寝ることを意識すると、精神的な不調の予防や改善に繋がります。

・就寝と起床の時刻を揃えて「ソーシャルジェットラグ」を防ぐ


もうひとつ重要な睡眠のための意識として、就寝時刻と起床時刻を揃える、というものがあります。

一週間で就寝時刻と起床時刻を揃えた場合と、そうでない場合で比較研究を行ったデータがあります。

たとえば、仕事のない土日にゆったりと眠って朝寝坊をした場合と、平日と同じ時間で寝て起きた場合を比べると、土日に遅れて起床したグループは、週明けに眠気や疲労度が強くなりやすいことが分かっています。

社会生活により平日と休日で生活リズムにずれが生じることを「ソーシャルジェットラグ」といい、これは海外旅行で起きる「時差ぼけ」と同じような効果をもたらします。

生活リズムが一度ずれてしまうと、翌週までその影響を持ち越してしまうので、起床と就寝を一定に保つことは、精神の健康を保つ上で重要です。

就寝時刻を揃えることが難しい場合でも、起床時刻をなるべく揃える習慣を持つと、生活のリズムは崩れにくくなります。

・スマートフォン、SNSの使用と睡眠の関係


現代の生活に欠かせなくなったスマートフォンですが、精神的な不安やストレスとも関わりがあることをご存じでしょうか。

とくによく使われがちなSNS(XやInstagramなど)に依存したり、振り回されたりする「SNS疲れ」も睡眠と何らかの関わりがあるのではないかということが、最近の研究で判明しつつあります。

スマートフォンの使用時間が長くなるほど、社会的な不安が高くなり、仕事でのストレスが回復しにくいと言います。

社会生活の連絡手段・情報収集のためのツールとして完全にスマートフォンを断つことは難しいですが、その付き合い方については見直す必要があります。

日本人のスマートフォンの1週間の平均利用時間は20時間前後(MM総研、「スマートフォンサービス利用実態」2023年7月調べ)で、一日の平均利用時間は約2~3時間と言われています。

仮に一日の睡眠時間が7時間とし、勤務時間が9時から17時までとすると、平日の可処分の時間は17時から23時までの6時間になります。

ここから通勤時間や、食事、洗濯、掃除など身の回りの家事に充てる時間を差し引くと、残りはわずか数時間程度です。

その貴重な時間を、スマートフォンのアプリの利用で費やしてしまうと、簡単に生活のバランスが崩されてしまうので、なるべく2時間以内に収めるように工夫してみましょう。

スマートフォンの使用はこうしたタイムスケジュールの関係で夜間帯に利用時間が集中しやすく、入眠前にスマートフォンに触れることで、脳が覚醒状態になり、寝つきにくくなります。

寝室にはスマートフォンを持ち込まず、就寝2時間前にはスマートフォンに触れないようにすることで、生活リズムを整えやすくなり、結果的に体調の改善が見込めます。

・気分の落ち込みを防ぐためには「運動」が効くケースも


気分の落ち込みを防ぐために「運動」が役立つ場合があります。

週3回、30分間を全力の70-85%でウォーキングやジョギングを行うと、薬と同程度のうつに対する効果があったとする研究があります。

精神科の医療には「運動療法」というものがあり、運動は気分の落ち込みを改善するために役立つことが知られています。

とくにうつ病で併発しやすい「肥満/過体重」「2型糖尿病」「アンバランスな食事」「メタボリックシンドローム、高血糖、高脂血症」「自律神経失調症」といったリスクを、運動によって改善することができます。

運動を行う際に、ジョギングやウォーキングのような有酸素運動と、筋トレのような無酸素運動のどちらがメンタルの改善によいのか? という疑問がよく挙げられます。

研究結果によるとどちらの運動でも落ち込み度の低減が見られるので、好みの運動を選択して構いません。

もっとも気分の落ち込みの低減が見られたのは、有酸素運動と無酸素運動を組み合わせた群で、相乗効果が見込めます。

・「スモールステップ」で楽しみながら運動してみる


現実には会社員で運動の機会を週3回、30分間以上確保するのはなかなか難しいかと思います。

本人の健康状態や体調によっても異なりますので、なるべくストレスのない好きな運動を見つけるとよいかもしれません。

近所の公園をちょっと散歩したり、お気に入りの喫茶店まで歩いたり、景色のよい川沿いの道をジョギングしてみたりと、何かの楽しみと組み合わせることで、運動を行うきっかけづくりになります。

まずはちょっとだけやってみる「スモールステップ」で、楽しみながらメンタルの改善に取り組んでみてください。

(了)

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