1. HOME
  2. ブログ
  3. コラム
  4. 職場の安心を育む心理学「誰もが幸せに成長できる 心理的安全性の高め方」書評

BLOG

ブログ

コラム

職場の安心を育む心理学「誰もが幸せに成長できる 心理的安全性の高め方」書評

「心理的安全性」という言葉を聞いたことはありますか?

米大手IT企業のGoogleが行った調査において、「高いパフォーマンスを行うチーム」に共通している最も重要な要素は「心理的安全性」である、という研究結果が出ています。

「心理的安全性」とは、「チームメンバーの間で、一人ひとりが考えたことを自由に発言でき、失敗やミスをしても責められる感覚を抱かず、安心して行動できる環境」を指します。

「誰もが幸せに成長できる 心理的安全性の高め方」の著者である松村亜里氏は、2人以上の関係性であれば、「いつでも」「どこでも」「誰でも」心理的安全性を作っていくことができるといいます。

今回は、本書を参考に、職場や周囲との対人関係で役立つ「心理的安全性を高める」アイデアをご紹介します。

・「心理的安全性」を高める「ポジティブ心理学」


「心理的安全性」という言葉は、もともとハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱したものです。

「このチームは対人的なリスクを取っても安全であるという共通の認識をチームメンバーが持っていること」が論文での定義でした。

1999年に論文で発表されたあと、2015年に行われたGoogleの『プロジェクト・アリストテレス』という調査で、「心理的安全性」が、高い業績を上げるチームの共通点であることが判明しました。

その結果、エドモンドソン教授の論文が脚光を浴びることになります。

「誰もが幸せに成長できる 心理的安全性の高め方」の著者・松村氏は、こうした『心理的安全性』を高めるためには、「ポジティブ心理学」の考え方が役立つことを提唱しています。

・「ポジティブ心理学」の「ハピネスアドバンテージ


たとえば、ポジティブ心理学には「ハピネスアドバンテージ」という考え方があります。

これは「人は成功したからといって幸せになるとはかぎらない」「しかし、幸せになることで生産性が高まり、成功しやすい」という、一見すると常識とは真逆の研究結果を明らかにしたものです。

一般的には「成功したことによって幸せになるもの」と思われがちですが、実際には「幸せであるから成功しやすい」法則があることが「ポジティブ心理学」によって発見されました。

この考え方は「心理的安全性」を高めるときにも有効です。

「チームのメンバーが、欠点を指摘されたり、失敗を責められたりする」環境にあれば、ネガティブな空気が漂い、メンバーの視野が狭まったり、目の前のことにしか対処できなくなる傾向があります。

これは、人間が本来持っている動物的な本能と関わりがあり、ネガティブになれば目の前の危機から逃れるために、生存や安全を優先させるための行動を取りやすい傾向があるからです。

一方で、「この場所では安全」だとチームのメンバーが感じられるようになれば、視野が広がり、いままでできなかったことにも挑戦する機会が生まれ、自然と能力も高まっていくという好循環が生まれます。

ネガティブな感情を抱いているときよりも高いパフォーマンスを出しやすくなるので、その結果、成功しやすくなるというわけです。

・「心理的安全性」を高めるのは、会社の繁栄のためではなく、働く個人のため


2015年に「心理的安全性」の重要性を実証したgoogleや、欧米の先進企業では「チーフ・ハピネス・オフィサー(CHO)」という役職が置かれていることがあります。

これは従業員の幸福度をマネジメントする、というもので、働く人が幸福になることで高いパフォーマンスを発揮しながら仕事に取り組めるように専門の援助を行います。

日本ではまだほとんど例がありませんが、海外で導入された事例では、職場での人材定着(離職率の低下)、従業員の生産性の向上が見られたといいます。

しかし、ここで「会社の業績向上のために」、従業員に対して心理的安全性を説くのは、本末転倒だと著者の松村氏は警鐘を鳴らします。

あくまでも「心理的安全性」を高めるのは、従業員個人の幸せのためであって、「頑張って、心理的安全性を高めよう」と上から目標を掲げるやり方では、うまくいかないと著者は述べます。

そうではなく、従業員の一人ひとりが幸せになれる方法を一番に考えて実行していけば、自然と生産性も高まり、その結果として会社運営もうまくいくようになるといいます。

「心理的安全性」を高めるのは、会社のためではなく、まずは働く個人のため、という観点から出発するとよいでしょう。

・心理的安全性の基本は、ひととの「関係性」にある


「心理的安全性」というと、ちょっと分かりにくい、と感じている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし「心理的安全性」の基本にあるのは、シンプルにひととの「関係性」です。

本書では、心理学者のハリー・ハーロウ氏の実験が紹介されています。

「ハーロウの代理母実験」として知られているもので、母親を亡くしたアカゲザルの子に、針金で作った代わりの母親と、布で作った代わりの母親を与えます。

針金で作った母親には、子ザルの生存に必要なミルクの入った哺乳瓶を持たせます。布で作った母親には、哺乳瓶がない代わりに柔らかい布地でできています。

そして子ザルを観察すると、布地で作った母親の方になついて離れず、一日の大半を布で作った母親と過ごすようになったといいます。

このアカゲザルの子にとっては、布でできた母親と「よい関係性」が育まれたと言えます。

そのあとで、針金の母親といるときと、布の母親がいるときと別々に、新しく熊のぬいぐるみを与えます。どちらの母親と過ごしていても、はじめは熊のぬいぐるみを怖がります。

しかし、しばらくすると、布の母親と過ごしていた子ザルは、少しずつ熊のぬいぐるみに近づいて興味を示すようになります。

一方、針金で作った母親と過ごした子ザルは、いつまでも檻の隅にうずくまって怖がっていました。

この実験から分かることは、布の母親に愛着を持ち「よい関係性」を作ることができた子ザルは、その後も新たな「関係性」を作ることに興味を示したということです。

この行動は、布の母親が子ザルにとって「安全基地」になっているからこそ、未知のことに対して挑戦したり、興味を持つことができるようになっていたと考えられます。

人間も同じで、対人関係が「安全基地」のように安心できる場になれば、リスクを恐れずに挑戦できる領域が広がります。

そのためには「質のよい関係性」を作り上げることを最優先に考えてほしいと著者は述べます。

「質のよいつながり」と「質のよい情報やスキル」の両方がなければ、人はよい方向に変化することはできない――これは、私が長年教育現場で心理学を教え、カウンセリングをしてきた中で、行き着いた結論です。

こうしたよい関係性は、幸せだけでなく、挑戦と成長にもつながります。

「誰もが幸せに成長できる 心理的安全性の高め方」松村亜里著 WAVE出版(2022)

・職場においても「いい関係性」が、仕事の楽しさに関わっている


職場で仕事を行うときに、「ビジネスだから割り切って付き合っている」「仕事だからいい関係性なんて必要ない、淡々とやればいい」という意見もあります。

とくに企業の組織でこうした考え方は根強く残っていて、ひととの「関係性」は後回しにされがちです。

しかし、従業員の「働く意欲」や「やりがい」、「充実度」といった心理状態(ワークエンゲージメント)には、職場のひととの関係性が深く関わっていると言います。

アメリカの従業員がどれくらい働くことに「喜び」を見出しているかという研究で、「職場との関係がよくなかった人」は、わずか10%しか仕事を楽しむことができていません。

一方で「職場との関係がよかった人」は、約半数にも上る49%のひとが仕事を楽しめている、という結果になったといいます。

周囲との関係性次第で、職場で仕事をして過ごす時間が一変してしまうので、ひととの「関係性」を少しずつでも育んでいくことが、いい仕事をするためのひとつの要素になります。

・タテだけではなく、ヨコの関係にも「心理的安全性のある」関係を結ぶこと


心理的安全性の高い職場を作ろうと、リーダーやマネージャーが働き掛けることがあります。

そのこと自体は素晴らしいことなのですが、こうした「心理的安全性」のある関係は「タテ」の関係だけでなく、「ヨコ」の関係にも必要だと、著者の松村氏は述べています。

リーダーやマネージャー以外の他のメンバーが、「ヨコ」同士の関係を作れるようになって、はじめて職場全体の「心理的安全性」を高めることができます。

著者の松村亜里氏は、カウンセリングを行うときには、クライアントと「タテ」の関係になるといいます。

たとえ、面談でクライアントがどれだけ心を開いて話し合うことができたとしても、それはあくまでも「カウンセラー」と「面談者」というタテの関係性のなかに留まっています。

しかし、面談者がほんとうに問題を解決できるようになるのは、普段の周囲のひととも「ヨコ」の関係性を作れるようになってからだと言います。

つまり、職場でカウンセラーの役割を果たす、リーダーやマネージャーがいなくても、メンバーが周囲と「心理的安全性」を保った関係を結べるか、というのがポイントになります。

・まずは「いいこと」をシェアしてみる


本書では、「心理的安全性」を高めるための工夫や取り組みが数多く紹介されていますが、そのなかからひとつをご紹介します。

ポジティブ心理学の研究に「よい関係かどうかは、よいニュースへの反応の仕方で決まる」というものがあります。

本書では、悩み事を持つ学校の保護者のためにサークルを開いた事例が紹介されています。

はじめ、司会の男性は親たちに「今、困っていることはありませんか?」と尋ねていたそうです。

しかし、親たちはただ素直に「困っている」ことを話していくだけで、その会にはどんよりとした空気が流れていました。

そこで司会の男性は、ポジティブ心理学で学んだことをきっかけに、「最近、嬉しかったことはありませんか?」「お子さんのことで、よかったことはありませんか?」と質問を変えたそうです。

すると、それまで沈んでいた表情だった参加者の顔が明るくなり、メンバー同士の関係性がよくなっていたと言います。

そうするうちに、誰かが悩み事を話しても、活発に意見を交わしながらお互いの問題を解決していくようになりました。

このように、多くのひとが集まる場では、最初に「よいこと」から話しはじめるようにすると、ポジティブな感情が生まれやすい傾向があります。

この傾向は「拡張形成理論」と呼ばれ、主に二つのメリットがあるといいます。

・同じ場でポジティブな感情を持った人たちは、グループ内での信頼関係ができて心理的安全性が高まる

・ポジティブな感情は視野が拡張するので、問題が解決しやすくなる。

「誰もが幸せに成長できる 心理的安全性の高め方」松村亜里著 WAVE出版(2022)

このように心理的安全性を高めるためのコツが「誰もが幸せに成長できる 心理的安全性の高め方(松村亜里著 WAVE出版)」で多数紹介されています。

「心理的安全性」について考えるときは、ぜひ本書を参考にしてみてください。

(了)

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事