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クリニック経営前に読みたい、『クリニック経営のための最高の人材育成』

・クリニックを経営する前に読んでおきたい『人材育成』について学べる本


『クリニック経営のための最高の人材育成』は、クリニック経営における『人材育成』の問題に着目した一冊です。

医師の主導によるトップダウン方式の経営方法を変え、自立したスタッフを育てるためのノウハウが、著者である小暮裕之氏(医療法人社団モルゲンロート理事長、有明みんなクリニック院長、医療経営大学学長)によって、分かりやすくまとめられています。

今回は、本書のポイントを三つに絞ってご紹介します。

医療業界で慣習となっているトップダウン方式の経営を変える


本書の冒頭では、「なぜ、クリニック経営において『人材育成』が重要になるのか」という点について説かれています。

医療の世界は「医者をボスとしたヒエラルキー構造で成り立っている」と、著者である小暮氏は語ります。

その背景には、医学部時代から続く非常に厳しい上下関係があり、医師になったあとも先輩医師や指導医に従っていくことが基本的な考え方になっている、という事情があります。

そういった体制が続く中で、「上の立場にいる者が物事を決め、下のものはそれに従うのが当たり前」という価値観になりやすい構造があると、本書のなかで指摘されています。

その考え方のまま、医師がクリニックの経営をはじめてしまうと、看護師や事務員などのスタッフとの関係がぎくしゃくするようになり、やがて院内からスタッフが離れていき、人材の流出が起こるようになる、と明かしています。

スタッフが定着しないクリニックとなれば、患者さんからの信頼も得られず、クリニックの経営は立ち行かなくなってしまう。

こうしたことを著者である小暮氏は実際に体験し、一時は20名の院内スタッフを失い、5000万円もの損失を出した「暗黒の一年」があったと言います。

そして、小暮氏は経営者やリーダーとして、「自分がどう変わるべきなのか」を模索するようになったと言います。


そこで自己啓発書として有名な『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)という本に出会い、これまでのトップダウン方式から、スタッフの意見にも耳を傾け、ともに自立した「リーダー」となることを目指す『人材育成』に着目した運営方法へと転換を図りました。

著者である小暮氏はこれまでの医療業界の慣習を打ち破って、医師が「ボス」となるクリニック経営ではなく、医師とスタッフがともに「リーダー」となっていくクリニック経営を提唱しています。

そして、それが実現されるためには、まず現状のトップである医師の側から変わらなければならないことを、この本の中で訴えています。

『七つの習慣』や稲盛和夫氏など、先人の経営哲学を取り入れたノウハウ


本書のポイントの二つ目は、『七つの習慣』や稲盛和夫氏などの、先人の経営哲学を取り入れた人材育成のノウハウが構築されている点です。

『クリニック経営のための』とタイトルに銘打たれていますが、ベースとなっているのが『七つの習慣』をはじめとする有名なマネジメント理論です。

そのため、医療関係者のみならず、他の分野で活躍する社会人にとっても応用が利くノウハウとなっています。

たとえば、「自主」と「主体性」という言葉を挙げて、『リーダー』にとっては、「主体性」の方が大切であると説いています。


「自主」とは、周りからの干渉を受けずに単独で行動することですが、「主体性」は、たとえグループの一員という立場であっても、一人ひとりが当事者としての意識をもって、自分の意思と判断で行動することだと説明しています。

つまり、単独で好きなように行動することと、組織に属しながら自分でものを考えて行動することは違うと言っているわけです。

スタッフの「主体性」のエピソードとして、娘たちを連れてべつの病院に向かおうとしている母親と、それを見かけたスタッフのエピソードが本書のなかで紹介されています。


長女は具合がわるく、次女はまだ幼く抱っこが必要で、紹介状を貰ってべつの病院へ行く際に困っていた母親がいました。

それを見かけたスタッフは自分の判断で、母親に付き添うことに決め、代わりに次女を抱っこしてその病院まで歩いて行ったといいます。

本来であれば、スタッフが持ち場を離れることは職場のルールに違反することですが、患者の母親からは感謝され、そのスタッフの判断の正しさを著者は認めています。

そういう風に、スタッフが自ら考えて主体的に行動できるような環境を作り上げることが、リーダーとしての役目なのだと述べています。

信頼がすべての人間関係の基本にある


本書では、クリニックからスタッフが次々に去っていき、人材育成のあり方を見直した著者の小暮氏がいかに再起したか、その方法について述べられています。

これまでのトップダウン方式の経営を見直すうえで、最初に行ったのは、スタッフからの信頼をどのように取り戻すのか、ということでした。

心理学の世界では、カウンセラーと患者との間に生まれる信頼関係のことを「ラポール(rapport)」と言いますが、近年ではこうしたマネジメントや日常生活においても注目されている用語です。

こうした信頼関係のないところから、お互いが自由に意見を述べたり、打ち解けた話をするのは難しいとされます。

著者の小暮氏は、まず自分を相手に分かってもらおうとするのではなく、スタッフを理解しようとすることに努めたと言います。


第三章の「部下の力を引き出す、コーチングの3ステップ」では、こうした信頼関係を得るためのテクニックとして、「ペーシング」という会話法や、スタッフとの一対一のミーティング時間を設けて、聞き取りを行う(1on1ミーティング)などの手法が紹介されています。

また『リーダー』とは、単に周囲に影響を与えるだけのひとではなく、周囲からも影響を受けるものだと本書のなかで述べられています。

上司と部下の関係であっても、それぞれが別の人間だから違う意見や考え方を持っているのは当たり前で、そこで重要になるのは相手の異なる意見を認める姿勢だと言います。

たとえば、上司がAという案を考えていて、部下がBという案を考えている状況を想定します。

このとき、相手の意見を聞かずにA案のみで押し通すのではなく、部下のB案を上司が鵜呑みにするのでもなく、双方の意見を出し合ったうえで、よりよいC案を生み出すことを理想とします。

C案というのは、単にA案とB案の間を取っただけの妥協案ではなく、A案やB案を上回っているもので、これを「シナジー」と呼びます。

部下とのコミュニケーションの最終目的はこの「シナジー」を生み出すことだと、本書のなかで述べられています。

・まとめ 『人材育成』を中心にしたクリニック経営を


まずは信頼を得るために、自分の利益ではなく、相手にとっての利益を考えて動いていく。

上司と部下の関係であれば、その意見に耳を傾け、互いに影響を与え合うなかで、上司も部下も持っていなかった新しい意見に辿り着く。

それを経営に活かすことで、従来の医師によるトップダウン方式から、『人材育成』を中心とした経営モデルに変えていけると、著者は本書のなかで述べています。

これからクリニックの経営をはじめるという医療関係者の方にとって、開院前に読んでおきたい一冊として本書を勧めます。

(了)

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