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「ひとを育て、会計に強くなる」中小企業の経営法。「社員100人までの会社の『社長の仕事』」

ビジネス書に書かれている大企業の経営と、中小企業の経営法は違う


今回は、「社員100人までの会社の『社長の仕事』」という本をご紹介します。

よく書店などで売られているビジネス書や経営の自己啓発本は、主に大企業の経営者向けに書かれていると、著者の古田土満氏は指摘します。

こうした大手企業が意識しているような経営方法を、社員数100名前後の中小企業が取り入れようすると、うまくいかなくなる傾向があると、本書のなかで述べられています。

つまり、大企業と中小企業ではそれぞれに適した経営方法があり、同じやり方をしていては、経営が立ち行かなくなるのです。

上場企業などの大企業では、経営方針に株主が関わっており、どうしても株主を意識した経営をせざるを得ません。

しかし、社員数100人前後の非上場の中小企業は株主のことを考える必要がなく、それならば社員を意識した経営に取り組むべきだと、著者の古田土氏は述べます。

・中小企業の社長は、顧客の満足よりも「従業員の満足」を先に考える


中小企業の社長は、「経営者は従業員の満足(ES)を第一に考え、社員は顧客の満足(CS)を第一に考えて」動くのがよいと、著者は述べます。

一般のビジネス書では何よりも「顧客第一」が優先されますが、中小企業の社長は「顧客の満足」よりも「従業員の満足」を重視した経営の方がうまくいくと言います。

では、小さな会社が目指すべき経営方法は何かというと、「人を育てる」経営を意識すべきだといいます。

企業がなぜ利益を追求すべきなのかというと、経常利益を内部留保とし、そのお金で「社員とその家族の生活を守るため」だと著者は考えます。

会社に利益が残らない、急速な事業拡大は「成長」ではなく「膨張」


会社の倒産のパターンはいくつかありますが、本書ではとくに会社のむやみな「膨張拡大」によって倒産するパターンには気を付けた方がよいといいます。

たとえば、過剰な設備投資を行ったり、身の丈に合わないような急速な事業展開をするパターン。もしくは、売り上げは伸びているものの、利益が残らないような経営を行っているか。

こうした方法によって拡大した企業は、成長ではなく「膨張」しているのだと言います。

事業拡大には正しい方法というものがあって、まずは最初の店舗で徹底的に儲けられるような仕組みを作ることを著者は勧めています。

最初の店舗がそれほど儲からないうちから、第二、第三の店舗を出すことは失敗のもとだと本書のなかで指摘されています。

新規に起業する場合は、1年目から利益を出せることは稀で、通常は最初の2~3年は利益が出ないものとして扱う必要があります。

・「損益計算書」より「賃借対照表」を見れば、会社や社長の本質が分かる


会計士の視点からのアドバイスとして、「損益計算書」は全社員で作り、「賃借対照表」は社長ひとりで作るもの、と考えておくとよいと著者は述べます。

「損益計算書」は、そのときの経営の勢いを表すもので、一年程度で上下することがありますが、「賃借対照表」には、10年、20年と積み上げてきた会社の歴史が表れています。

たとえば、会社に現金預金が少ないのにゴルフの会員権や有価証券、事業に使われていない不動産などを保有していたりすれば、社長が会社のお金をどのように使ってきたのか、すぐに分かるといいます。

そして、「会社の財務体質を強くする」のは、一時の経営で上下する「損益計算書」ではなく、この「賃借対照表」を重視すること。このことが経営体質の改善に繋がります。

人材の確保が難しい中小企業だからこそ、「社員を育てる」ことを大切にする


中小企業では、大企業に比べると、資源が少ないという事情があり、優秀な人材は大手企業に流れやすくなっています。

そのため、人材の確保にさえ苦労する中小企業がほとんどで、だからこそ、社員を第一に考え、「社員を育てていく」経営が中小企業には不可欠だといいます。

より安定した経営を行うために、まずは「経営計画書」を作ることを著者は勧めています。

経営の戦略を立てるにも、まずはその企業が目指す理想がどのようなものなのか、はっきりしていなければ、実際の経営目標に落とし込むことができません。

経営の理念やビジョンは、外部のコンサルタントやべつの誰かに作ってもらうのではなく、社長自身が普段から話しているような言葉で書くのが望ましいとしています。

そして、その経営理念のなかに必ず「社員の幸せ」を追求することを含めて、それを第一に掲げるように勧めています。

・「長期事業構想」に、社員がキャリアアップをイメージできる「社員の未来像」を


経営理念を明文化できたら、次は「長期事業構想」を作ります。これは会社が5年~10年というスパンでどのような企業になっていたいのか、というものを表したもので、ここで社員が自分の「未来像」が描けるよう、きちんと示します。

「事業の未来像」よりも、「社員の未来像」の方が重要で、この会社にいることで社員が今後、どのようにキャリアアップしていけるのかが分かれば、社員は安心して会社に勤めていくことができます。

中小企業は前提として離職率が高い傾向にあり、社員がこの会社にいることで成長できると感じられなければ、こうした高い離職率を防いで人材を育てていくことができません。

なので、ここでも「社員の未来像」が、第一となるのです。

社員の成長や新商品開発のための「未来費用」という考え方


また中小企業の経営では「未来費用」というものを計上することを著者は提唱しています。

この「未来費用」というのは、将来的な成長のための投資で、主に従業員の「教育研修費」や「研究開発費」、「広告宣伝費」などに使われるものです。

これらの費用は、中小企業ではほとんどが計上されておらず、軽視されがちな項目であるといいます。会社の業績が悪くなると真っ先に削減の対象となりがちです。

しかし、こうした費用をゼロにすることは得策ではない、と著者は述べます。

目先の利益に囚われるのではなく、社員の成長や新しい商品の開発研究に日ごろから投資しておくことが、将来のリスク低減に役立つといいます。

中小企業で利益を稼ぎ出してくるのは「従業員」で、それぞれの社員の成長が見込めて、はじめて業績が改善されていきます。

この「未来費用」は、必要な利益を確保した上で、余剰分の利益をこうした社員の教育費や研究開発費に充てていくのが原則になります。

・古田土式会計の「未来会計図表」


本書では経営状況の改善のために、古田土式会計の「未来会計図表」というものが紹介されています。

「経営指標がいくつもあって、どの項目を見たらいいのか分からない」というときに、最初に見るべきところは、「損益分岐点比率」です。

こうした財務諸表を見るときに重要なのは、「収益構造(儲けの構造)はどうなっているのか」を理解して把握することです。

つまり一万円の売上をあげるのに、原価がいくらかかっていて、粗利益はいくらなのか。さらに、その粗利益のうち、いくら人件費にかかっていて、その他の諸々の経費にどれぐらい費やされているのか、その結果として営業利益はどのぐらい残るのかを把握しておくことが大切なのです。

「社員100人までの会社の『社長の仕事』古田土満著 かんき出版(2015)kindle版より引用

よく「他社と比較してウチはどうなのか?」と考えがちですが、同じ業種であっても儲けの構造は会社ごとによって異なります。

多くの中小企業の経営者は、「売上高経常利益率」を見ているといい、京セラの稲森和夫さんも「売上高経常利益率10%を目指しなさい」と述べられています。

しかし、古田土式会計で見るべきところは、「売上高経常利益率」ではなく、「損益分岐点比率」だといいます。

損益分岐点比率は、粗利益額に対して、固定費がどれだけの割合を占めているかという指標です。損益分岐点比率が80%というのは、粗利益額100に対して固定費が80%であること。つまり、万が一、売上高が20%下がっても収支はトントン。損益分岐点率は低ければ低いほど、会社としての優良性が高いということになります。

「社員100人までの会社の『社長の仕事』古田土満著 かんき出版(2015)kindle版

理想の損益分岐点となる比率は80%で、目標とするのは90%。これは製造業やサービス業でも同じだといいます。


古田土式の会計では、「未来会計図表」を使ってこうした数値を分かりやすく示し、具体的にどの数値を改善すれば、目標とする経営状態となるかをシミュレーションしていきます。

「未来会計図表」については本書のノウハウの核心部分となりますので割愛しますが、具体的な方法論を詳しく知りたいという方は、一読を勧めます。

(了)

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