「セルフ・キャリアドック」導入のポイント、「新卒社員」「中堅社員」へのキャリア支援アプローチ
「セルフ・キャリアドック」という言葉をご存じでしょうか。
2016年(平成28年)4月1日より施行された「改正職業能力開発促進法」により、企業側にも従業員へ個別のキャリア支援を行う努力義務が設けられました。
「セルフ・キャリアドック」とは、従業員一人ひとりのキャリア形成の促進・支援を促すためのもので、主にキャリアコンサルタントによる面談やキャリア研修が行われます。
発端は、2015年に政府が提示した「日本再興戦略改訂(2015)」にあります。
「キャリアドック」の「ドック」は、「人間ドック」と同じようにキャリアの専門家とともに定期的に自身のキャリアを見直す、という意味があります。
これまで従業員に対するキャリア支援は馴染みが薄く、個別のキャリアコンサルティングが実施される機会は少なかったかもしれません。
しかし、「改正職業能力開発促進法」が施行されたことにより、「セルフ・キャリアドック」の導入に踏み切る企業も現れています。
今回は、2016年の法改正をきっかけに注目されることになった「セルフ・キャリアドック」についてご紹介します。
・「セルフ・キャリアドック」が導入される背景
従業員へのキャリア支援を行う「セルフ・キャリアドック」が導入される背景には、日本の労働にまつわる問題が社会問題化していることが挙げられます。
「少子高齢化による労働人口の減少」「急激なITの普及・進展による社会変化」「グローバル化によるビジネス競争の激化」など、これまでの日本社会が想定していた働き方やキャリアプランでは対応しきれない課題が生まれてきました。
厚生労働省のHPに記載の資料「『セルフ・キャリアドック』導入の方針と展開」から、「セルフ・キャリアドックの実施形態」より引用すると、
厚生労働省 公式HP「企業・学校等においてキャリア形成支援に取り組みたい方へ」
- 新卒採用者の離職率が高いという課題に対して
- 育児・介護休業者の職場復帰率が低いという課題に対して
- 中堅社員のモチベーションが下がっているという課題に対して
- シニア社員の長い生涯キャリア設計とその実践という課題に対して
PDF資料「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開」より引用
この4つの労働にまつわる課題が、とくに重要な「喫緊の課題」として挙げられています。
・社内の幅広い層が対象となる「セルフ・キャリアドック」
これらの4つの課題を見ても分かるように、新卒・中堅・シニア社員、育児・介護休業者まで、社内の幅広い層において「セルフ・キャリアドック」の対象となっていることが分かります。
「セルフ・キャリアドック」はこれらの課題を解決し、従業員に対してはキャリアに対する意識と仕事のモチベーションの向上、キャリアの充実を目的に実施されます。
また企業側においても、人材の定着や組織の活性化を図るなどの実施メリットがあります。
それでは、先ほど述べた4つの課題のうち「新卒社員」と「中堅社員」を対象とした、「セルフ・キャリアドック」の実施イメージをご紹介します。
①新卒社員への「セルフ・キャリアドック」の実施イメージ
近年の新卒採用者に関わる課題としては、高い離職率が維持されていることが挙げられます。
リーマン・ショック以降(2010年卒以降)の新卒社員の3年以内の離職率は概ね「3割」と言われ、2019年卒の離職率は大学卒で「31.5%」と、依然として高い傾向にあります。
こうした新しい世代の傾向は、コラム記事(「新しい世代のキャリアデザイン」)でもご紹介しています。
2018年にアデコグループが行った「新卒入社3年以内離職の理由に関する調査」によれば、「自身の希望と業務内容のミスマッチ」「待望と福利厚生に対する不満」「キャリア形成が望めないため」が、主な離職理由として挙げられています。
これらの理由は、いずれも新卒社員の「キャリア」に関する悩みとつながりがあります。
企業側と新卒社員の間で、働くイメージやキャリア像にギャップがあることが問題となっています。
いわゆる「リアリティショック」というもので、入社前に抱いていたイメージと現実の労働環境のズレに戸惑い、早期離職に繋がるケースが多く見られます。
・新卒社員への職場定着支援を行い、「キャリアパス」を分かりやすく明示する
こうした働くイメージのズレによる早期離職を防ぐため、「セルフ・キャリアドック」では、まず仕事への向き合い方や職場で働くための作法を伝えていきます。
新卒社員が安心して仕事に取り組めるように定着支援を行うのがポイントです。
また若手社員からよく聞かれる声として、「社内での自身のキャリアが見えない、長期に渡って社内で働くイメージを思い描けない」というものがあります。
若手社員が抱えやすいキャリアの悩みに対応できるよう、企業側から社内での「キャリアパス」を具体的に示すようにします。
「キャリアパス」は、働く本人が希望するポジションや職務に就くための道筋を示すものです。
その業務やポジションに就くためにはどうすればよいのか、どんな業務経験や能力が必要なのか、社内・社外でのキャリアの道筋が思い描けるように具体的に伝えます。
かつては、新卒社員と関わる担当の先輩社員から、働く作法や職場で働いていくイメージを学ぶ、というのが一般的でした。
しかし、近年は業務の細分化やテレワークといった多様な働き方が進み、こうした「働きはじめた頃の悩み」や「キャリアパス」を相談できる機会は、徐々に減りつつあります。
まだ会社に入ったばかりで、今後どのように働いていくかイメージを掴めない新卒・若手社員に対し、キャリアの専門家(キャリアコンサルタント)が介入しながら、企業全体としてキャリア支援を行っていきます。
②「中堅社員」への「セルフ・キャリアドック」実施イメージ
これまでの働き方といえば、新卒で入った一つの会社にできるだけ長く勤める働き方が一般的でした。
こうした雇用方法は「メンバーシップ型雇用」と言われ、終身雇用・新卒一括採用・定年制を前提とした働き方になっています。(参考コラム記事:「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型」雇用へ)
しかし、現在では終身雇用制度は崩壊に近づいていると言われており、さらに管理職や役職のポストを十分に用意できなくなっている現状があります。
そのなかでバブル期以降に入社した中堅社員の働くモチベーションの低下、社内でのキャリアビジョンが見えない、という課題があり、こうした中堅社員を対象に「セルフ・キャリアドック」を行います。
・中堅社員への「セルフ・キャリアドック」好事例
厚生労働省HPに記載の、「各企業の事例紹介」で紹介されている「事例10社」のなかには、中堅社員を中心に「セルフ・キャリアドック」を行った企業があります。
「セルフ・キャリアドック」の取り組みが紹介されている「水ing株式会社」では、社員構成のボリュームゾーンが「45歳~55歳」のミドル層となっており、「従来の人事施策では追いつかない状況」になりつつあったと、導入の経緯が綴られています。
この事例では、主に49~51歳の社員のなかで数年間研修のなかった社員を対象に、キャリア研修を実施。
キャリアコンサルタントによる面談の前に、受講者にガイダンスを行い、キャリア面談が行われる必要性や受講者自身へのメリットを事前に説明します。
キャリア研修から1ヵ月後、社外コンサルタントによるキャリアコンサルティング面談が行われ、その後、人事担当者にフィードバックされるという手順で「セルフ・キャリアドック」が行われました。
社内で「セルフ・キャリアドック」の研修を受けた従業員からは、このような声が上がったといいます。
・「職場や部署の違う同年代が集まる研修は刺激的で、今後の自分の仕事の進め方など参考にしたいと思った」
・「第三者に自分自身の生活を話す機会がほとんど無いため、有意義な経験になりました」
・「これまでのキャリアを見直す良い機会となりました」
・「キャリアコンサルタントが社外の方ということもあり、普段は自ら口に出さないことも話しやすかった」
・「このような機会が定期的にあるとありがたい」
・「将来的なキャリアビジョンを考えるには、50 歳ではやや遅い」
厚生労働省公式HP「企業・学校等においてキャリア形成支援に取り組みたい方へ」
PDF資料「各企業の事例紹介」、事例「水ing株式会社」の項より引用
「セルフ・キャリアドック」の研修を行ったことで、「同年代の部署を超えての集まりが刺激になった」という組織の活性化につながる声や、「社外のキャリアコンサルタントが介入することで、相談者自身も悩みを打ち明けやすい」というメリットも見えてきました。
一方で、「将来的なキャリアビジョンを考えるには、50 歳ではやや遅い」という声も上がり、より早い段階から中堅社員へキャリア支援のアプローチを行う必要性が垣間見える結果となっています。
まとめ 「セルフ・キャリアドック」を導入することのメリット
「セルフ・キャリアドック」は、働く人にキャリアを見つめなおす機会を与え、企業で働くイメージをより主体的なものにすることができます。
新卒・若手社員の見えにくい「働く悩み」を取り除くことによって、職場への定着を図ります。
中堅社員へは、「部署を超えた同世代との研修が刺激となる」、「社外のキャリアコンサルタントへの相談の機会」といった組織の活性化にも繋がります。
このような課題を解決するために、ぜひ「セルフ・キャリアドック」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
当事業所(「一般社団法人 関西キャリア教育センター」)では、キャリアコンサルタント事業についても請け負っております。
社内研修や、キャリアコンサルティング、心理カウンセリングについて、個別のご相談がございましたら、「お問合せ」ページより承ります。
(了)
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