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新しい世代のキャリアデザイン「『ジョブ型雇用時代』のキャリアマネジメント支援論」

・「ジョブ型雇用時代」に移り変わる現代


「ジョブ型雇用」という言葉をご存じでしょうか。

これまでの日本の労働市場では、新卒採用などで雇った社員に仕事や役職を割り振る「メンバーシップ型」の雇用が中心となっていました。

長らく「日本型雇用」と言われてきたものに、「新卒一括採用、年功序列、終身雇用」があります。これらは「メンバーシップ型」の、1社に長く勤め続けることを想定した雇用形態です。

しかし、今後は会社が業務範囲や職務内容をあらかじめ決定した上で、それにマッチする人材を雇う「ジョブ型雇用」にシフトしていく流れが生まれているといいます。

背景にあるのは、日本の労働市場の多様化です。

2000年頃まで、ほとんどの日本企業が「新卒正社員」を中心としたメンバー構成でした。

こうした雇用形態が徐々に移り変わり、中途採用やパート・アルバイト従業員、派遣社員が加わるようになります。

さらに、2010~20年台にかけて、女性の働き方の変化、外国人労働者の増加、フリーランス、副業の解禁、コロナ禍によるリモートワークの普及など、近年では多様な働き方が広まりつつあります。

従業員のひとりひとりが、それぞれ異なるキャリアを歩んでおり、抱えているバックグラウンドもみな違っているため、管理職となるマネージャーへの負担は増大しているといいます。

「リクルート」出身の著者が、若い世代のマネジメントに悩むマネージャーに向けて書いた本


本書は、「20代前半の若手メンバーを持つ30歳前後のマネージャーのために」書かれた本だと冒頭で述べられます。

著者の平田史昭・松村直樹氏は、「株式会社リクルート」の出身で、1997年に適職診断プログラム『R-CAP』の開発に携わった人物です。

就活生のときに『R-CAP』を受けてお世話になった、という方も多いのではないでしょうか。

今回は、「『ジョブ型雇用時代』のキャリアマネジメント支援論」の要点について、まとめてみました。

若い世代のキャリアマネジメントに悩んでいる方は、よかったら参考にしてみてください。

・「自律的なキャリア形成」が求められる時代のキャリアマネジメント


第一章の「キャリアマネジメント支援が必要な時代」では、これまでのキャリアマネジメントの方法論では通用しなくなってきているマネージャーの現状を解説しています。

企業の先行きは年々、不透明になってきており、かつてのように十年、二十年と安定して企業が継続する保証はなくなっています。

終身雇用制は一部の大企業を除けば、ほとんど崩壊したといってもいいでしょう。

これまでの日本企業のキャリア形成は、主に会社に依存することで形作られてきましたが、現代では、「組織に依存しない」、「自律的なキャリア形成」が求められる時代になった、と著者は分析します。

雇用が不安定になることで、会社側も個人のキャリア形成に責任を持つことが難しくなり、働く側も、将来の安心やリスクを考えると、自らのキャリアを会社に依存できない状態になりつつあります。

その結果、働き続けるためには「成長しなければならない」という観念や、「自分の価値観で働き方を選ぶ」志向が、若い世代の間で強くなっているといいます。

・新しい時代の流れによって、マネージャーが抱え込むことになった「ジレンマ」


この新しい傾向が、マネージャーにとってあるジレンマを生んでいるといいます。

それは「ひとを育てなければ業績は上がらないが、ひとが育つと、チーム業績が低下するリスクがある」というものです。

これがどういうメカニズムで起こるのか説明すると、マネージャーがある従業員を自律的に仕事が遂行できるようになるまで、社内で育て上げたとします。

そのメンバーは社内で通用する戦力となりますが、ある程度まで力を付けると、もっと成長できる環境を求めて、社外に目を向けるようになるといいます。

そこには、先ほど述べた社会全体が「自律したキャリア形成」を促すメッセージが関わっています。

せっかく手塩にかけて育てたメンバーが会社から離れやすくなる傾向があり、離職されると、もう一度新しく入ってきた従業員に社内教育を施すことが繰り返されます。

「ひとつの会社に留まらない、自身が成長する機会がなければ会社を辞める」という傾向は、とくに若い世代において顕著で、マネージャーはこうした社会の流れと現場との間で板挟みになっています。

しかし、それでも従業員を育てるマネジメントを止めてしまえば、マネージャー自身がひとを育てる「マネジメント」の機会を失い、満足にメンバーを揃えられないまま、ひとりで孤軍奮闘し続けることになる、といいます。

そのジレンマを突破して、メンバーのキャリア開発に携わることが、マネージャー自身の成功や「キャリアマネジメント」能力の開発につながっていると著者は述べます。

・失われた「三つのM」


「ジョブ型雇用時代」へと移り変わるなかで「三つのM」が失われたと、本書の中で指摘されています。

「三つのM」とは、

①モデリング(Modeling)
②モニタリング(Monitoring)
③メンタリング(Mentoring)

を指しています。

①モデリング(Modeling)


「モデリング」とは、簡単に言うと、他者を観察して学ぶ、という意味です。元々は心理学の用語になります。

かつては一律に会社へ出社し、同じフロアで先輩社員と後輩社員が仕事を共にするのが、基本的な勤務体制でした。

しかし、現在ではフレックスタイム制が導入されていたり、リモートワークでそもそも出社する必要がなかったり、先輩社員と顔を合わす機会が少なくなる働き方が現実のものとなってきました。

これまでの社内文化や企業の社風は、主に先輩社員の振る舞いから学ぶものでしたが、自社で「同じ場」、「同じ時間」を共有することができないことから、こうした無形の企業風土は、新しい世代の社員には伝わりづらくなっています。

②「モニタリング」(Monitoring)


「モニタリング」は、「観察」という意味です。会社で言うと、先輩社員が新人の仕事の様子を見守る姿勢が挙げられるでしょう。

分かりやすい例がOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)で、実際の仕事を新人社員や後輩社員に経験させながら、その場で指導したり、助言していくというものです。

しかし、こちらも同様に同じ場と時間を共有していないことから、マネージャーがリアルタイムで後輩社員の仕事ぶりを確認する機会が失われています。

また業務の細分化が進んだことから、それぞれの社員ごとによって職種の内容が異なっており、そもそもマネージャーが経験していない業務に関しても、部下の仕事の管理をしなくてはならない状況も現れています。

つまり、これまでの「OJT」のように「経験者が学んでいることをその場で伝承していく」というスタイルの育成方法では、現場は既に対応できなくなっている、ということです。

③「メンタリング」(Mentoring)


「メンタリング」とは、職場の年長者や仕事の熟達者(メンター)が、新人社員など、経験の浅い未熟練者に学ぶ機会を与えるというものです。

これまでは、職場で挨拶を交わしたりするひとが、新人社員に仕事について声をかけたり、後輩を食事に誘うことで仕事の相談に乗ったりする、ということは日常茶飯事でした。

現在では、こうした慣習も減りつつあり、ちょっとした困りごとを相談できる相手が社内に見つからない、という状況が生まれやすくなっています。

「ジョブ型雇用時代」にマネージャーができる「キャリアマネジメント支援」とは?


こうした「三つのM」の喪失が、メンタル不調者の増加や、期待されている中堅社員や新人社員の早期離職、それらが引き起こす企業の業績悪化を招く一因にもなっています。

現在のマネージャーにとっては厳しい状況が続いており、そうした「ジョブ型雇用時代」にマネージャーが行える「キャリアマネジメント支援」とは何なのか? と著者は問いかけます。

ここで提唱されるのが「ジェネリックスキル」というものです。

・自身の成長機会のためなら、離職さえためらわない、新しい世代の傾向


リクルートが2021年卒までの大学4年生に対して行った、キャリア研究に関するアンケートがあります。

これによれば、「企業独自の特殊な能力が身に付く」ことよりも、「どこの会社に行っても通用するような汎用的な能力が身に付く」ことを重視する学生が、年々増加する傾向にあったといいます。

また2018年にアデコグループが行った「新卒入社3年以内離職の理由に関する調査」では、「自身の希望と業務内容のミスマッチ」「待望と福利厚生に対する不満」「キャリア形成が望めないため」という理由が、それぞれ3割超でした。

こうしたアンケート調査から見えてきたことは、新しい世代の社員は、1社に留まって職務能力を身に付けていくということを重視していないということです。

社内で希望する職種に就けない場合や、他社でも通用するような成長が見込めないのであれば、離職もためらわないという傾向があります。

・どんな会社や職種でも役に立つ「ジェネリックスキル」の開発を支援する


このようにメンバーが転職していくリスクを抱えながら、マネージャーが新人社員や後輩社員に対してできる「キャリアマネジメント」とは何なのでしょうか。

それは、どんな会社や職種でも通用する「ジェネリックスキル」を開発することだ、と著者は述べます。

ジェネリックスキルとは、どの仕事にも共通するような能力を指します。

たとえば「コミュケーション能力」や「課題解決のための情報収集能力」、「仕事に対するモチベーションの持続力」などといったものが挙げられます。

こうした「ジェネリックスキル」を向上する視点に立ってマネジメントを行うときに役立つのが「Will Can Mustフレーム」だと著者は提唱します。

キャリア支援の現場で使いたい「We Can Must」フレームという考え方

Will Can Mustフレームは、主にキャリアデザイン、マネージャーとメンバーで行う目標設定やキャリア面談などで使われる観点です。
Will Can Mustのそれぞれの意味は、
Will……やりたいこと(意志)
Can……できること(能力)
Must……やらなければならないこと(役割)
です。

キャリアマネジメント支援では、このフレームを使いながら本人の期待・希望・意志(Will)、能力(Can)、役割や仕事に求められる成果や能力、マネジャーの期待(Must)について、現状把握と課題の明確化を行い、今後のキャリアマネジメントのターゲットや取り組むべき課題を明確にしていくことができます。

「『ジョブ型雇用時代』のキャリアマネジメント支援論」平田史昭・松村直樹著 クロスメディア・パブリッシング kindle版より引用

実際にこのフレームを活用する場合には、まず円を三つ書きます。

そして、円のなかに「Will(仕事において望むこと、実現したいこと)」「Can(実際に持ち合わせているスキルや必要になる技術)」「Must(周囲から求められている役割やポジション)」を当てはめて考えていきます。

この三つの円が重なりあう点こそが、本人にとって最も満足度の高い領域になり、重なりが大きければ大きいほど、自分と周囲からの期待がかみ合い、能力を十二分に発揮できるポイントを発見できるといいます。

「Will Can Must」フレームは、本人の適性を見ることができるだけではなく、どの点において偏りが生まれているかを見ることによって、そのひとの現在の特性も発見できます。

本書ではキャリアマネジメントの例として、

パターン①理想先行型
パターン②他社依存型
パターン③目的喪失型

が挙げられていますので、最後にこちらをご紹介します。

①「理想先行型」のキャリア支援


パターン①の理想先行型の特徴は、「Will(仕事の希望、意志)」が他の「Can(仕事の能力)」や「Must(会社から期待される役割)」を大きく上回って、重なる点が見つけられない場合です。

理想先行型の場合は、本人の「やりたいこと」ばかりに目が向いており、それに見合う実力がまだ身に付いていない状態です。端的にいうと実力不足です。

こうした理想先行型のキャリアマネジメントを行う場合のポイントとして、本人の意識が「今ここ」に向いていないことに問題があると、指導のポイントが書かれています、

本人にしてみれば「いまの仕事は自分がやりたいことではない」あるいは「機会さえ与えられれば、自分が思い描いたようにできる」と、自分ではなく周囲の環境や他人に原因がある、と捉えている状態です。

このケースでは自己評価が過大となっているか、その裏返しには自分に自信がない、過小評価することが背景にある可能性もある、と著者は述べます。

こうしたケースでは「Will」と「Must」の円を繋げばよい、といいます。

本人が「やりたいこと」をまずは明確にして、その「やりたいこと」を実現する能力を身に付けるために、現在の職務範囲のなかから、「Will」に役立つような領域を探り当てます。

そして本人の希望と、現在の会社が割り当てることができる職務のなかで、最も重なりの大きいポジションに抜擢することで、社員の「Will」と「Must」を繋げられるように会社側が取り計らいます。

②「他者依存型」のキャリア支援


パターン②の「他者依存型」は、「やらねばならない」という意識が強く、与えられた仕事や言われたことだけに注力していて、自分がやりたいことや実現したいことを思い描けていない状態です。

こうした場合のキャリアマネジメントの課題は、主体的な目標を持つようにすることがポイントだといいます。

本人は現状の仕事のなかで、「やりたいこと」をイメージできていない状態です。

その背景には、過大な仕事の要求に追われて思うように成果が挙げられず、周囲からも認められないことで、葛藤やストレスを感じているケースもあります。

こういった場合には、「やるべきこと(Must)」のなかに、自らの目標が持てるように支援するとよいと著者は述べています。

「Must(やるべきこと)」、周りから期待されている役割)」の円と重なるように、「Can(できること、仕事のスキルや能力)」の円を大きくしていき、本人の強みや、業務を遂行する上で開発する必要のあるスキルを明確にしていきます。

その上で、「Must(やるべきこと、役割)」や「Can(できること、本人のスキルや開発すべき能力)」と重なりあうような主体的な目標「Wiil(やりたいこと、希望)」を打ち出していくのがキャリア支援のポイントとなります。

③「目的喪失型」のキャリア支援


パターン③の「目的喪失型」は、本人の能力が高く、実力も伴っているが、仕事で本人の「やりたいこと」が満たされていない状態です。

もしくは、与えられる仕事や役割が本人の能力と釣り合っておらず、仕事は十分できているにも関わらず、本人にとっては面白みを感じられない。いわゆる「役不足」の状態にあります。

「Can(できること)」の円が最も大きいが、「Will(やりたいこと)」と「Must(やるべきこと)」との接点が見つけられていません。

こうした場合には、マネージャー側が期待する役割「Must(やるべきこと)」と本人の希望「Will(やりたいこと)」との間にギャップが生まれているケースがあるので、現実の落としどころ(Will、Can、Mustのそれぞれの接点)を見出す必要があります。

「目的喪失型」の場合は、総合的なキャリアデザインが必要となり、本人の希望をよく聞き取った上で、希望している職務に就くためにはどうすればいいのかを話し合っていきます。

その上で、希望する職種に就くためには足りていない能力や課題(「Will」との接点)を発見し、いまマネージャーから任されている仕事(「Must」との接点)の中で、それらが重点的に開発できるような目標を立てていきます。

まとめ マネージャー自身の悩みや課題解決のための一冊


本書ではこうしたキャリアマネジメント支援のための具体例が取り上げられています。

キャリア支援の現場で悩むマネージャーの方にとって、本書は課題解決の糸口となるかもしれません。

マネージャー自身の悩みや課題を解決するために、この本を手に取ってみることをおすすめします。

(了)

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