「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」へ、「2040年『仕事とキャリア年表』」書評
近年、注目されている働き方に「ジョブ型雇用」というものがあります。
「2040年『仕事とキャリア年表」の著者である植田統氏によると、いまから20年後の2040年台には、これまでの意味での「サラリーマン」は消滅しているだろう、という大胆な予測が立てられています。
しかし、大企業において「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」への導入がはじまっている現在、こうした予測は徐々に現実のものとなりつつあります。
かつて日本企業で主流となってきた「メンバーシップ型雇用」は、年功序列や終身雇用、新卒一括採用を前提にしたものでした。
「メンバーシップ型雇用」では、会社の人員を新卒で採用し、OJTや研修を通して社員教育を行い、定期的な異動を繰り返すことで、社内で通用する人材の育成が行われてきました。
こうしたジェネラリストを育成するようなやり方は、今後通用しなくなるだろうと著者の植田氏は本書のなかで見解を示しています。
「ジョブ型雇用」の流れが生まれている現在、必要になってくるのは専門的な技術やスキルに長けた「スペシャリスト(プロフェッショナル)」としての生き方だと著者は述べます。
今回は、「2040年『仕事とキャリア年表』植田統著(三笠書房)」を参考に、「メンバーシップ型雇用」の問題点と、「ジョブ型雇用」に移り変わっていく理由をご紹介します。
・「メンバーシップ型雇用」の問題点
「ジョブ型雇用」は主にアメリカなどの欧米で主流の働き方で、職務内容を定めた上で、それに見合った技能や技術を持った人材を雇い入れる方式です。
一方で「メンバーシップ型」の雇用は、「はじめに人ありき」で、特定の技能などは持っていなくとも、新卒時に一括採用し、徐々に仕事の技能を身に付けさせるという考え方です。
「メンバーシップ型」雇用の問題点は、1社に長く勤めつづけることを前提にしていることが、理由のひとつとして挙げられます。
・「メンバーシップ型雇用」は、企業の実態や新しい世代の働き方に合わない
現在では終身雇用制は一部の大企業のみになっており、こうした過去の雇用慣習が企業の実態と合わなくなってきているため、「メンバーシップ型雇用」の枠組みそのものが疑問視されています。
とくに若い世代においては、以前の記事(「新しい世代のキャリアデザイン」)でもご紹介しましたように、1社に留まるのではなく、スキルを習得しながら転職を繰り返す、という働き方がトレンドになりつつあります。
つまり、これまでの日本企業が採用してきた「メンバーシップ型」の雇用方法と、新しい世代の働き方の間でギャップが生まれているということです。
・「ジョブ型雇用」は、転職を前提とした雇用方法
欧米が採用する「ジョブ型雇用」は、1社に依存する形ではなく、よりビジネスライクに、そのひとが持っている技能や技術が会社にとって必要であるから雇用する、という考えが根底にあります。
その技能が会社にとって必要であれば通年で採用しますし、会社にとって働き手の技能が必要ではなくなった場合には解雇されます。
つまり、「ジョブ型雇用」というのは、転職を前提にした雇用方法といえます。
個人の専門分野が重視される傾向にあり、その専門性を磨きながら転職していくというのが欧米諸国の一般的な働き方になっています。
・2020年のリモートワーク普及によって生まれた、「ジョブ型雇用」移行の流れ
「ジョブ型雇用」は日本型の雇用慣習とは馴染まないものとされ、「メンバーシップ型雇用」の矛盾点を抱えつつも、一般企業への導入は見送られてきました。
しかし、2020年になって「ジョブ型雇用」への流れが急速に生まれつつあります。
背景にあったのは新型コロナウイルスの蔓延にともなって、日本企業に浸透しはじめたリモートワークです。
著者の植田統氏によれば、2020年を「ジョブ型雇用元年」とし、KDDIや富士通、日立といった大企業が、2020年を境に「ジョブ型雇用」を採用しはじめた事例が紹介されています。
リモートワークは、「ジョブ型雇用」の働き方にマッチしたもので、業務の範囲をあらかじめ定めておいたうえで、それぞれの社員が割り振られた仕事を進めていきます。
リモートワークでは、一人ひとりの業務の成果が明確に表れるようになり、個々人のスキルによって成果物に差が付きます。
従来の「メンバーシップ型雇用」よりも、個人のスキルや技能が重視されるため、こうした働き方には「ジョブ型雇用」が適しているといいます。
リモートワークが普及するタイミングと同じくして、「ジョブ型雇用」を導入する大手企業が現れてきたことが、本書のなかで指摘されています。
・少子高齢化により「メンバーシップ型雇用」が限界を迎える
こうした「ジョブ型雇用」の流れは今後も加速していくものとみられます。
背景には、日本の少子高齢化の問題も重なっていて、「メンバーシップ型雇用」の場合は、管理職のポストを十分に用意できなくなっており、若い世代の優秀な人材は転職や起業を考える傾向にあります。
また、生産年齢人口が減ることで、高齢者人口を支える現役世代の負担が増しており、政府はこの問題に対応するため、65歳までの雇用確保を義務付けています。
しかし、「メンバーシップ型雇用」は定年制による人員の入れ替えを前提にしており、定年の年数が伸びていくと企業側の負担が大きくなることが予想されます。
その結果、企業は有用な人材のみを残し、早期の希望退職を募ったり、高齢者雇用においては非正規雇用を適用するのが現実的な対応になります。
将来的に定年制は70歳まで延長していく可能性も示唆されているので、1社のみに勤め続けられるというのは、もはやこれからの若い世代において難しいことは明らかでしょう。
つまり、「ジョブ型雇用」は、いまの時代の流れによる要請とも言え、「メンバーシップ型雇用」は限界を迎えている、と言っても過言ではありません。
・「ジョブ型雇用」の時代に備えるキャリアデザインを
「ジョブ型雇用」が訪れる社会では、働く個人のスキルがポイントになってきます。
これまでのように1社に依存する形のキャリアデザインは通用しなくなり、転職を前提としながら、個人のスキルや専門性を高めつつ、最終的に思い描いたキャリアに到達する、という形に変わっていくのかもしれません。
「『2040年』仕事とキャリア年表(植田統著・三笠書房)」には、こうした予測が詳細に綴られています。
これからのキャリアデザインを考える際に、参考にしたい一冊です。
(了)
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