働く時間を生み出す「仕組み」づくり「自分とチームの生産性を最大化する 最新『仕組み』仕事術」書評
仕事をしているときに「もう少し時間に余裕があれば」と感じることはありませんか?
近年では「生産性」や「ワークライフバランス」に注目が集まり、働くときの効率や時間の意識が求められるようになりました。
「会社や仕事にすべての時間を捧げるのは当たり前」という従来の価値観から、「仕事はなるべく業務時間内に終わらせて、残業はしない」という考え方へ移り変わりつつあります。
「自分とチームの生産性を最大化する 最新『仕組み』仕事術」の著者である泉正人氏は、こうした働き方の変化に対応するためには「仕組み」を作ることが必要だと提唱しています。
今回は本書を参考に、仕事をうまく回していけるようになるための「仕組み」づくりのコツをご紹介します。
・なぜ「仕組み」づくりが必要なのか? ――働く「時間」を生み出すため
企業は以前よりも従業員の「働く時間」を厳しくチェックするようになっています。
背景にあるのは働き方改革や、リモートワークなどの普及があり、企業が「時間ごとの成果」を求めるようになったからです。
※成果主義となる「ジョブ型」雇用への移行は、過去のコラム記事(「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」へ)をご覧ください。
従来のオフィス勤務では、「夜遅くまで会社に残って働くこと」は、その社員が頑張っている証としてねぎらわれたものでしたが、「生産性」の観点から見ると、今後はそのように評価されることはなくなっていくでしょう。
日本では少子高齢化が進み、生産年齢人口が確実に減っていくことが予想されるため、企業は口をすっぱくして、「生産性」や「残業禁止」を従業員に言い渡すようになりました。
人口が減れば、人材の不足が起きて、より少ない限られたメンバーで仕事を回さなくてはならなくなります。
すると、一人の社員がひとつの業務にいつまでも時間を掛けていると、経営は成り立たなくなります。そうした危機感から政府や企業は「生産性」の向上を旗印に掲げています。
・働く時間を生み出す「仕組み」づくり
働き手は以前よりも短い時間で高い成果を出すことを求められていますが、働く時間を生み出す工夫は、現場の担当者に委ねられていると言ってもいいでしょう。
企業から、いきなり「仕事の効率を上げるように」、「残業は禁止」と言い渡されて、戸惑った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本書の著者である泉正人氏は、「仕組みを取り入れる最大のメリットは時間が得られること」だといいます。
「仕組み」とは何なのかというと、著者はこのように定義しています。
「仕組み」とは、一言でいうと「誰がいつ、何度やっても同じ成果が出るシステム」のことです。
「自分とチームの生産性を最大化する 最新『仕組み』仕事術」泉正人著 ディスカヴァー・トゥエンティワン刊(2017)」
それでは、時間を生み出す「仕組み」について詳しく見ていきましょう。
◎仕事に集中するための「仕組み」
①自分の作業が捗る時間帯を知って、作業時間を確保する
仕事に取り掛かったときに、気が散ってうまく集中できなかったことはありませんか?
やる気を出そうと思っても、何となく手に付かず、細かい仕事を後回しにしてしまったひとも多いのではないでしょうか。
仕事の集中力の問題は、本人の意思の問題ではなく、周囲の「環境」によるところが大きくあります。
「仕組み」とは、本人の「意思」や「やる気」に頼るものであってはならないと本書のなかで述べられています。
集中するための一つ目の「仕組み」は早朝の時間を使うことです。
朝の時間帯は、メールや電話といった外部からの連絡が入りにくく、それによって集中力が途切れたりすることがありません。
細かいタスクを朝のうちに済ませてしまえば、日中からの本格的な作業にも取り組みやすくなります。気分の上でもすっきりした気持ちで仕事に臨めるでしょう。
早朝の時間を作るのが難しい場合は、自分の作業が捗る時間帯を知っておくと役に立ちます。
たとえば、ひとによっては、夜の時間に仕事が捗るという方もいらっしゃるでしょう。
そういう作業が捗る時間を、他の予定が入らないように押さえておき、そのひとにとってのゴールデンタイムに邪魔が入らないようにしておきましょう。
おすすめは、手帳やカレンダーなどを使って、自分が作業するための時間をきっちり確保してしまうことです。
スマートフォンなどのデジタルデバイスで管理する場合は、リマインダーをセットし、時間になったらほかのことを止めて作業に取り組みはじめるようにしてみましょう。
とくにフリーランスの方など、時間に融通が利く方ほど、こうした時間管理は効果的です。
②「初速」を使って作業する
集中力をうまく使う「仕組み」の二つ目が、仕事始めの「初速」を使うことです。
たとえば、会議後に資料をまとめる作業を振られたとします。
その場では返事をして、実際に取り組むのが一週間後だった場合、会議の内容を思い出したりするために労力を使うことになります。
会議内容のメモを見ても、時間が経てば経つほど、そのときの記憶をはっきりと思い出すことはできないかもしれません。
本書では「仕組み」とは記憶に頼るものではない、と述べられています。
もし、資料作成を頼まれた直後に行っていれば、より短時間でクオリティの高い資料が出来上がるでしょう。
仕事を受注したときも同じで、仕事の案件についてクライアントと話し合った直後に作業を進めれば、スムーズに仕事に入りやすく、全体の作業工程を短縮できます。
このように仕事を着手するのによいタイミングというものがあって、それを活かすことで生産性を上げることができます。
③手間の掛かる作業は小さな工程に分解して作業する
たとえば、一冊の本を書くという依頼があったとします。単行本によっては十万字程度の膨大な量の文章を書かなくてはなりません。
作業量があまりにも多いと、作業の工程が見えづらく、なかなか着手するまでに時間が掛かるかもしれません。
仕事の終わりが見えない、作業工程が分からないものほど、後回しにされがちです。
しかし、「資料を集める」「アイデアを出す」「担当者と話し合う」「大まかなプロットを決める」「冒頭を書く」……、というように誰でも分かりやすい工程に分解すると、作業を進めやすくなります。
作業工程の順番を決めてしまえば、あとは上から順に実行していって、ひとつひとつのタスクを潰していきます。
今日は「参考資料をリストアップする」、明日は「ノートの見開きにアイデアを書き留める」というように、一日の作業が具体的に見えるまで、作業工程を分解してみるとよいでしょう。
◎人に任せるための「仕組み」
・「自分でやった方が早い」と言うひとほど、仕事を抱え込みやすい
仕事に「仕組み」を取り入れると、「仕事を人に任せられる」ようになる、と著者の泉正人氏は述べます。
たとえ、働く本人にどれだけ高い能力があっても、会社勤めであれば、自分一人ですべての仕事をこなすことはできません。
会社の管理職やリーダーは、おおまかな指示は行えますが、仕事を抱え込んだときに人に頼れるかどうかは、働く個人に委ねられています。
能力が高いひとほど陥りがちなのが「自分でやった方が早く、仕事の精度も高い」と考えているケースです。
しかし、個人で請け負える仕事量には限界があります。
仕事を人に任せることができなければ、目の前の仕事に追われる状態から抜け出せず、本来得意であった業務もクオリティが落ちてしまうでしょう。
・それぞれが得意な業務を割り振れば、最高のチームで仕事ができる
本書では、「企画書」を作る場合に、どのように人に任せるか、という考え方が語られています。
それからは「自分がやった方がベター」という考えが薄まり、「どのようにすれば『仕組み』をつくって仕事を人にまかせられるか」という思考に変わっていきました。
そこでまず行ったのは、業務を分解して、段階的に仕事をひとにまかせることです。
たとえば、「企画書をつくる」という仕事を分解するとしたら、「企画自体を練る」「データを集める」「資料を作成する」という大きな3つのタスクに分けられます。
「自分とチームの生産性を最大化する 最新『仕組み』仕事術」泉正人著 ディスカヴァー・トゥエンティワン刊(2017)」
このように一つの仕事を分解すると、いくつもの要素で成り立っていることに気が付きます。
たとえば、企画書を作るすべての工程をひとりで行えたとしても、部下や周囲の社員のなかには、「データを集める」のが得意なひとや、「資料作成」が巧いひとがいるかもしれません。
そういうときに、作業を任せることができるようになると、「企画を立案する」という重要な業務に時間を掛けることができるようになります。
それぞれのひとが得意とする分野に合わせて業務を割り振ることができるようになれば、仕事を最も効率よく進める配分ができたことになります。
すると、最高のスキルを持ったチームでひとつのプロジェクトを進められるようになります。
・人にものを教える手間を惜しまない
普段から自分で行っている業務を人に任せようとするとき、はじめは自分が行うよりも労力と手間が掛かります。
自分でやれば5分で済む作業も、ひとに教えたときには30分も掛かるということもあるでしょう。
その場では効率が悪いように思えますが、のちのちまでその業務を繰り返すことを考えると、早めに人に任せられるように手を打つのが最善です。
最初の手間を惜しんでいては、却って仕事を抱え込み続けることになります。
人に教える手間は一回で済みますが、人に仕事を振らなければ、その手間は一生抱えることになる、と著者の泉正人氏は述べています。
「自分とチームの生産性を最大化する 最新『仕組み』仕事術」では、仕事を効率的に進めるための様々なアイデアが掲載されています。
毎日の仕事に追われて余裕がない、という方に一度手に取ってみて欲しい一冊です。
(了)
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